リバースエンジニアリングは、製造業をはじめとした幅広い分野で活用されている技術です。具体的には、技術継承や復元、保管整理、デジタルアッセンブリ(デジタルデータを活用してコンピューター上で組み立てなどをおこなうこと)など、活用方法は業種によってもさまざまです。
ここではリバースエンジニアリングの手法やメリット、使用されるソフトなどをご紹介します。
リバースエンジニアリングとは?
リバースエンジニアリングとは、対象物をスキャンして取得した測定データを、リバースエンジニアリングソフトやCADを使ってCAD(Computer Aided Design)やCAM(Computer Aided Manufacturing)で扱えるデータに変換することを指します。
製造業においては、図面のない金型を忠実に復元したり、製造型のない部品を複製したり、ソフト上で仮組みをしたり、シミュレーションの精度を向上させたりする場合に活用されています。困難と思える作業を容易に実現できるほか、ものづくり作業の効率化やコスト削減も可能です。
また、リバースエンジニアリングは、扱う製品がハードウェアかソフトウェアかで目的や手法が異なります。
ハードウェアのリバースエンジニアリングでは、必要があれば製品を分解し、その形状を測定します。そこで得られたデータを解析・処理し、3Dデータ化や設計書の作成をおこないます。
一方、ソフトウェアのリバースエンジニアリングでは、すでにあるソフトウェアを調査し、ソースコードや設計などの仕様を明らかにします。互換性のある製品開発や技術盗用されていないかの確認などに活用されます。
リバースエンジニアリングのメリット
リバースエンジニアリングをおこなうことで得られるメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
技術後継者不足の対策になる
現在、国内の製造業で課題となっているのが人手不足です。それにともない、技術の継承や現場力の維持も大きな課題となっています。
しかし、リバースエンジニアリングを導入することで設計図や仕様書がない状態からでも実物を測定し、CADデータとして再現できるようになります。実物さえあれば製品を製造できるようになるため、技術継承者がいない現場の課題解決につながります。
新製品の開発工数削減につながる
新製品を開発する際には一般的に何度も実験と検証を繰り返すため、販売までにかなりの時間を要します。
その点、リバースエンジニアリングを活用することで既存製品からその仕組みや原理などすでにある技術を参考に新しい製品を作り出すことができるようになります。
そのため、製品開発作業の効率化やコスト削減につながります。
既存製品の欠点や改善箇所が分かる
リバースエンジニアリングでは既存製品の回路や内部構造まで分解して分析するため、表面上は見えない自社製品の脆弱性やバグを発見できる場合があります。
ソフトウェアであればマルウェア(悪意のあるソフトウェア)などへのセキュリティ対策にもつながります。
リバースエンジニアリングの注意点
リバースエンジニアリングは基本的には合法ですが、場合によっては法に抵触する可能性もあります。例えば、既存の製品を改良したものを販売する場合は知的財産権の侵害に当たる可能性があります。他社が特許を申請した技術を用いて製品を販売すれば特許権の侵害となります。
研究目的であれば問題ありませんが、製品に活かす場合は法に抵触していないかを確認するようにしましょう。
リバースエンジニアリングのやり方
一般的に製品を製造する場合は、最初にデザインや仕様書を作成し、それをもとにCADデータを作成し、最後にデータから試作品を作成します。
一方でリバースエンジニアリングでは、まず既存の製品を三次元測定機などを使って測定・分析します。そして、測定データをもとにCADデータを作成します。
ここからは、リバースエンジニアリングの手順を具体的に解説します。
STEP1.対象物の測定・分析をおこなう
リバースエンジニアリングでは最初に対象物の測定や分析をおこない、3D空間座標位置情報(x,y,z)を取得します。この測定に活用されるのが、3Dスキャナや三次元測定機などの測定機器です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
3Dスキャナ
3Dスキャナは、対象物にレーザーなどの光を当てて空間の3方向の座標(X・Y・Z)を取得し、対象物の形状などをとらえるものです。測定スピードが速く、大きな対象物の測定に適しています。
3Dスキャナについては、こちらの記事でも解説していますのでご覧ください。
■3Dスキャナとは?カメラ式非接触型、パターン光投影法などを解説
三次元測定機
三次元測定機は、3Dスキャナと同じく空間の3方向の座標(X,Y,Z)を取得しますが、より高精度での計測が可能です。
レーザー光などを利用して測定する非接触式と、プローブを対象物に接触させて測定する接触式があります。接触式は高精度で作業者の技術に左右されない単純な形状の測定に適しており、非接触式は複雑な形状にも対応できます。
三次元測定機については、以下の記事でも解説していますのでご覧ください。
■三次元測定機(CMM)の使い方は?正確に測るためのポイントを紹介
■三次元測定機について知る
CTスキャン
CTスキャンとは、医療分野で使用されるCTスキャンと同じようにX線を使って外部形状と内部形状の三次元データを得る測定機です。対象物を破壊することなく内部の形状を知りたいときに活用されます。
STEP2.取得した点情報をポリゴン化する
ポリゴンとは一般的に三角形や四角形などの多角形のことを指しますが、3Dデータでは3点以上の点で結んだ多角形の面データを指します。
STEP1の測定で得られた単なる点の集まりである点群データから、頂点で結ばれたポリゴンで表現したポリゴンデータにソフトウェア上で変換します。
STEP3.ポリゴンデータをCADやCAMとして出力する
次に変換したポリゴンデータからCADやCAMで扱える曲面を生成し、IGESやSTEPなどの中間フォーマットで出力します。
CADはComputer Aided Designの略で、コンピューター上で使用する図面作成ツールのことです。CAMはComputer Aided Manufacturingの略で、工作機械制御のためのプログラム作成ソフトです。CADのデータを工作機械で使えるようにCAMが出力します。
中間フォーマットの一種であるIGESはInitial Graphics Exchange Specificationの略です。ファイル名の最後が「.iges」や「.igs」になっているファイルで、ANSIの規格に沿った3Dデータを指します。
同じく中間フォーマットの一種であるSTEPデータはStandard for the Exchange of Product Dataの略です。ファイル名の最後が「.stp」や「.step」になっているファイルで、国際規格ISOに合致した3Dデータとなります。
リバースエンジニアリングのプロセスについておさらいできるデモ動画もぜひご覧ください。
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リバースエンジニアリングの手法
リバースエンジニアリングにはいくつかの手法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。ここでは3つの手法をご紹介します。
Auto Surface(オートサーフェス)
Auto Surface(オートサーフェス)とは、測定データに対して境界線を引き、境界線をもとに測定データにフィットした自由曲面形状を作成する手法です。
メリット | デメリット |
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オートサーフェスではスキャンしたデータをそのまま使うため、寸法測定や細部まで細かく3Dデータ化する必要のない状況での使用に適しています。
例えば、デジタルデータの組み立てをコンピューター上でシミュレーションするデジタルアセンブリや解析に用いられます。
Surface Modeling(サーフェスモデリング)
Surface Modeling(サーフェスモデリング)とは、測定データを解析してからベースになる面を作成し、それらの面を延長しソリッドモデルを作成してから曲面を付けていく手法です。
個々の面を作成するため、輪郭や方向をコントロールできます。質量を持たない面を張り合わせてモデリングするため表面積は求められますが、厚みや重みは求められません。
メリット | デメリット |
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こうした特徴から、意匠設計や自動車のボディーデザインなど、複雑な表面形状を複数持つ形状を作成するのに適しています。
Solid Modeling(ソリッドモデリング)
Solid Modeling(ソリッドモデリング)は、対象物を3次元構造で再現する手法です。
ソリッドモデリングでは、まず測定した三次元データの断面を切り、その輪郭の折れ線に対して自動でスケッチします。ただし、自動スケッチがうまくいかなかった箇所は手動で線を作成する必要があります。
次に、近似の直線や曲線、円弧を作成し、作成したスケッチを押し出したり回転させたりしてモデリングします。
そのため、仮に直方体を製図する場合、サーフェスモデルでは中身が空洞ですが、ソリッドモデルでは体積など内部情報まで再現できます。
メリット | デメリット |
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TTSが扱っているリバースエンジニアリングソフトのご紹介
東京貿易テクノシステムでは、さまざまなリバースエンジニアリングソフトを取り扱っています。ここでは各ソフトの特徴をご紹介します。
spScan
spScanは、非接触三次元形状測定データからNURBS曲面を作成するリバースエンジニアリングソフトウェアです。
特長として、点群データを穴埋めや間引きなどの自動修正を加えながら最適にポリゴン化できることが挙げられます。
また、オートサーフェス機能で曲面からポリゴンへのフィッティングも可能。
さらに、ポリゴンと曲面の誤差解析カラーマップを使えば、ひと目で誤差を確認できるため、修正にかかる工数を大幅に削減できるのもメリットです。
そのほか、spScanにはサーフェスモデリング機能も搭載されています。サーフェスモデリング機能により、CADに近い面構成で精度と品質の高い自由曲面を作成することができます。そのため、デザイン形状や金型などのモデリングに最適です。
詳しくはこちらをご覧ください。
Geomagic Wrap
Geomagic Wrapは、点群データから、下流エンジニアリングや製造、工業デザインなどに活用できる3Dポリゴンデータやサーフェスモデルを生成するソフトです。
Geomagicの先進的なサーフェス変換ツールは、高精度の3Dモデルに必要な最新モデリング機能を備えていながら、使いやすさやパワフルさも追求しています。リバースエンジニアリングのプロセスでおこなわれる繰り返し作業を自動化するスクリプトやマクロも使用可能です。
肉眼で発見できない岩面陰刻や古代の紋様を解析する場合や、壊れやすい芸術作品の3Dを活用して修復・再現する場合などで活用されています。
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Geomagic Design X
Geomagic Design Xは、履歴ベースのCAD機能と3Dでスキャンしたデータの高度な処理機能を融合したソフトウェアです。
有機的な形状を高精度なCADモデルに変換する業界最高レベルの曲面変換を実現。既存のCADソフトウェアと互換性のある、フィーチャベース(立体形状を作成する手法)で編集可能なソリッドモデルを作成できます。
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PolyWorks|Modeler™
PolyWorks|Modeler™は、測定部品のポリゴンモデルからカーブやサーフェスなどの最適なCAD要素を抽出することで、CADモデリングを実現するソフトウェアソリューションです。
不完全なポリゴンモデルの修正と最適化を自動でおこなうだけでなく、ポリゴンデータのリアルタイム生成にも対応したポリゴンモデリングが特長です。また、優れた精度と滑らかさをもつNURBSサーフェス(平面情報や曲面情報を持つNURBS形状)を直観的な手法で作成可能です※。
詳しくはこちらをご覧ください。
■PolyWorks|Modeler™製品詳細
※PREMIUMパッケージでのみ可能
リバースエンジニアリングの活用事例
最後に、リバースエンジニアリングの実際の活用事例をご紹介します。
池上金型工業株式会社様
プラスチック射出成形用金型の製造を専門とする池上金型工業株式会社様では、もともと金型や成形品の測定に三次元測定機を導入していました。しかし、対象物に複数の測定ポイントがある場合に測定に多くの時間がかかる為、三次元の非接触CCD測定機(センサーを使用した測定機)を導入しました。
CCD測定機の導入をきっかけに金型製造の知見を生かした多分野展開を目指し、リバースエンジニアリング事業を立ち上げました。
池上金型工業様では、ポリゴンデータをCADデータに処理する工程でspScanを使用しています。spScanは広い面は緑・折れ曲がっている箇所は赤というように測定データが色で示されるため、形を認識して整える作業時間が短縮されたとのことです。また、ソフトの扱いも簡単なことから技術者の育成期間を大幅に縮めることにもつながっています。
詳しくはこちらをご覧ください。
Apex株式会社様
オリジナルの自動車後付けパーツブランド「Apexi」を展開するApex株式会社様は、すべての自動車メーカーに対応できる技術力や品質の高さでファンを多く持つ企業です。
そんななか、近年では3D技術を活用した新規事業において高精度のリバースエンジニアリング事業に取り組んでいます。
当初、リバースエンジニアリングを受注してもソフトの設定や作業に工数がかかり、納期が見えづらい状況が続いていました。
そこで、spScanを導入してソフトによる自動設置と技術者による手動設定を細かく調整したことで、モデリングまでの時間は1/5ほどに短縮。単価を下げることにもつながり、顧客への還元も実現しました。さらに、工数も読めるようになったため、安定して利益を得ることにもつながっています。
詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
リバースエンジニアリングは、製造業におけるさまざまな課題を解決するだけでなく、他分野への活用も目覚ましい技術です。
リバースエンジニアリングでは、用途によって適した手法や用いるソフトが異なります。最適なソフトの選択は、時間短縮だけでなく利益アップにもつながります。この記事を参考に、ぜひ自社に適したソフトを選びましょう。
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