測定機などの使用において耳にすることの多い「キャリブレーション」という言葉。どういったところで使う言葉かご存じでしょうか?
ここでは、キャリブレーションの概要や、校正・較正との違い、キャリブレーションをおこなうタイミングについて解説します。工場などの現場で活躍する産業用ロボットに欠かせない「ロボットキャリブレーション」や、それに必要なツールもご紹介します。
キャリブレーションとは
キャリブレーションは、対象機器の正常性を計測するために、精度の出ている基準ゲージや安定して正確な結果を出力する計測機(標準機)と対象機器の出力結果を比較し、ズレがあれば調整するといった作業を指します。英語では”calibration”と表記され、校正、較正、目盛りなどの意味を持ちます。
測定機の経年劣化による計測精度の低下を防ぐキャリブレーションの他、産業用ロボットの精度を高める「ロボットキャリブレーション」、PCモニターの個体差を極力減らす「モニターキャリブレーション」など、さまざまなキャリブレーションがあります。
企業の多くが取得している「ISO9001」のなかにもキャリブレーションプロセスについての記載があります。ISO9001は、品質マネジメントシステムの国際基準であり、ガイドラインのようなものです。国際基準レベルの品質管理のもとで製品やサービスを提供していることの証明となります。
キャリブレーションの適切な実施は、組織の信用に間接的に影響をおよぼすものであり、怠ってはならない重要なプロセスです。
較正・校正との違い
較正と校正は、どちらも「こうせい」と読みます。本来は較正と表記しますが、「較」が常用漢字の音訓表に登録されていないため、「こう正」や「校正」の表現がよく使われます。
校正は測定機の動作や精度を確認することを指します。校正から得られた誤差を確認し、その誤差の値をもとに正しい測定値を計算することで、正確な測定値が導き出されます。
一方、キャリブレーションは、正確性を確認したあとに偏りが発見された場合に、正確な測定値が得られるよう測定機を調整することまで含まれる場合があります。
キャリブレーションをおこなうタイミング
機械は長時間の動作、負荷などにより経年劣化を起こし、製造時と比較すると出力にズレが発生するようになります。キャリブレーションを長期間おこなわずに機器を使用していると、正確なデータが得られなくなります。不正確なデータは、製品そのものや企業に対する信頼を失うことにつながります。
また、キャリブレーションは定期的におこない、得られたデータを一定期間保管する必要があります。ISO9001には5年間保持しておくよう記されています。測定機ごとのキャリブレーションのタイミングは、1年ごとなどメーカーそれぞれに推奨される時期が定められているため、それに従いましょう。
主なキャリブレーションのタイミングは以下の3つです。
- 測定機を使う前
計量物をのせておろしたときに表示が「0」になるかなど、簡単なキャリブレーションを使う前に毎回おこないます。
- 周辺の環境が変わったとき
測定機は複数の精密部品から成り立っている為、気温や湿度など、少しの環境の違いがわずかな誤差となって測定値に表れることがあります。周辺の環境が大きく変わったときはキャリブレーションをおこなってください。
- 決まったタイミングで定期的に
メーカーが推奨するキャリブレーションのタイミングに従い、定期的におこないます。測定機によって半年おき、1年おき、2年おきなど周期はさまざまです。決まったタイミングで定期的にキャリブレーションをおこない、測定値の精度を保ってください。
ロボットキャリブレーションとは
「ロボットキャリブレーション」はキャリブレーションのひとつで、正確な動きがもとめられるロボットのアームやセンサーを、正確に動くように位置を合わせる作業です。ロボットアームの関節リンクの位置関係など、実際の動作における幾何学パラメータを判断し、偏りが生じていれば調整をおこない、ロボットの精度を高めます。
例えば産業用ロボットはロボットキャリブレーションが必要です。
産業用ロボットは作業の再現性が高く、繰り返し同じ作業をすることに特化しています。一方で、従来の産業用ロボットは絶対精度(指定した位置で正確に動作する精度)が繰り返し精度に対して劣る場合が多く、その対処はロボット自体にはできませんでした。ズレが発生してしまうと、製品の品質を一定に保てません。
定期的にロボットアームなどの位置や動きを調整しそろえるキャリブレーションは、必要不可欠な作業です。
ロボットキャリブレーションの事例については以下ページをご覧ください。
■ロボット関係(キャリブレーション、リアルタイムフィードバック制御他)
ロボットキャリブレーションに必要なツールとは
ロボットキャリブレーションには、実際に位置や距離をはかるために必要な位置決めセンサーやトラッカーが必要です。また、自動で比較や解析をおこなってくれるソフトウェアや測定から結果レポート出力までおこなう自動計測システムがあれば、ティーチング作業の簡素化など、人的コストや手間を大幅に省くことが可能です。
位置決め用のセンサーやトラッカー
位置決め用のセンサーは、物体の位置や距離を測るのに使われます。いくつか種類があり原理はそれぞれ異なりますが、すべてに共通するのは、対象物の移動変化や位置検出のためにレーザーのような物理的作用を使用し、対象物と環境との相互作用から数値を導き出す点です。
東京貿易テクノシステムが提供する位置決め用のセンサー『Leica T-Mac』は、自動化アプリケーションに最適な6自由度計測用デバイスです。位置決め用のセンサーのなかでも高い精度が求められるロボットキャリブレーションにも対応しています。
トラッカーは、キャリブレーションをおこなう対象設備の三次元座標を算出するのにもちいます。三次元座標は、X軸、Y軸、Z軸の3軸において、ある基準点からの距離を数値にして示したものです。トラッカーからレーザーなどの信号を送信、測定対象から跳ね返って伝わってくる信号を受信し、得られたデータからソフトウェア処理によって測定点の三次元座標を算出します。ロボットキャリブレーションでは、トラッカーがロボットの位置をとらえる役割を果たします。
トラッカーは非接触での測定のため、対象物を傷つける心配がありません。大型の装置や建造物のような大きな対象物の三次元座標を高い精度で導き出せることもメリットのひとつです。
東京貿易テクノシステムでは、さまざまな現場で活躍可能なレーザートラッカーを複数提供しています。『LeicaレーザートラッカーAT960』はロボットキャリブレーションの他、マニュアルの三次元計測や自動測定にも対応しており、広範囲な領域を高精度に計測できます。
ソフトウェア
ロボットキャリブレーションをおこなううえで、人間が考える脳の役割を担うのがソフトウェアです。位置決め用センサーやトラッカーから得られたデータをもとに、ソフトウェア上でデータ解析や分析をおこないます。
まとめ
キャリブレーションは、測定器で正確に測定するために定期的におこなう必要がある大事なプロセスです。ただし、キャリブレーションをおこなうタイミングは測定機ごとに異なるため、メーカーが推奨するタイミングを確認し、適切に実施することが大切です。
また、産業用ロボットなど同じ作業を繰り返すロボットの精度を高める「ロボットキャリブレーション」の例を紹介しました。
正しい計測結果を得る、作業の精度を高めるために、キャリブレーションは定期的に実施しましょう。