昨今、製造業をはじめ、文化財保護やDX、災害対策など、多くの分野で活用されているのが点群データです。聞いたことはあるけど、点群データの具体的な活用イメージをつかめてない方もいるのではないでしょうか。うまく点群データを活用できれば、業務効率化やコスト削減などが期待できます。
この記事では、点群データの定義や特徴、メリットや注意点、活用方法などを解説します。
点群データとは?
点群データとは、位置情報と色情報を持った点の集まりのことです。
位置情報は、物体の位置をX, Y, Zの三次元座標で表現したもので、物体の正確な位置を特定するために使用されます。一方、色情報は、光の三原色として知られるRGBや明るさ(輝度)などで表現しています。
また、点群データは正確な物体の3Dデータを作る基盤となり、製造業や建築業などあらゆる産業で活用されています。
点群データを取得する主な方法
点群データを取得する主な方法を3つご紹介します。
3Dレーザースキャナ(レーザートラッカー)
3Dレーザースキャナは、レーザーや光を利用して物体の表面をスキャンし、非接触式で点群データを取得する機器です。なかには、対象物にリフレクタと呼ばれる受光部を設置し、そこからの反射光を検出して三次元座標を取得するレーザートラッカーと呼ばれる機器もあります。
スキャンの方法は、照射するレーザーや光の種類によって主に以下の3つの方式に分類できます。
- タイム・オブ・フライト(TOF)方式
- フェーズシフト方式
- レーザー切断方式
タイム・オブ・フライト(TOF)方式は、レーザー光を物体に当て、その反射光がセンサーに戻ってくるまでの時間を測ることで距離を決定します。フェーズシフト方式は、反射レーザーの位相変化を測定します。光投影方式は、特定のパターンを持つ光を物体に投影し、その歪みから形状を計測します。レーザー切断方式は、可視光を投影して距離を測ります。
レーザートラッカーについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
レーザートラッカーとは?メリットや測定方法の種類について解説
また、東京貿易テクノシステムで取り扱っているレーザートラッカーについては製品ページをご覧ください。
フォトグラメトリ
フォトグラメトリを活用することでも点群データの取得が可能です。
フォトグラメトリは、カメラを使って撮影した写真をもとに3Dデータを生成する技術です。さまざまな角度から撮影した物体の写真データから、精度の高い3Dデータを作り出せます。
フォトグラメトリは、技術の歴史こそ古いですが、コンピュータ処理技術の向上やデジタルカメラ・スマートフォンの普及にともない、より手軽な技術となりつつあります。
フォトグラメトリについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
フォトグラメトリとは?必要な機材やメリット・注意点、製造業での活用例について解説
また、東京貿易テクノシステムで取り扱っているフォトグラメトリについては、製品ページをご覧ください。
ドローンやMMSとの組み合わせ
産業用途で点群データを取得する場合、スキャナなどの機器を固定するか、手持ちで計測をおこなうことが一般的です。
しかし、土地などの広大な領域を計測するには限界があります。そこで、昨今では計測機器(3Dレーザースキャナー、カメラなど)を搭載したドローンや車両を使用して、移動しながら広大な領域を計測してデータを取得するケースも見られます。
このように、車両を用いて測量をおこない、点検や調査に活用する技術をモービルマッピングシステム(MMS)といいます。
点群データを活用するメリット
点群データを活用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、そのメリットを3つ解説します。
計測業務の効率化やコスト削減が見込める
点群データを活用すると、実際に計測した物体の寸法から図面を起こすことができるため、計測業務の効率化が図れます。そのため、その作業に必要な人材や工数の削減につながり、結果としてコスト削減が見込めます。
ここでは、実際に点群データを活用して業務効率化に成功した事例をご紹介します。
従来、道路の改良工事をおこなう際には、現地での測量情報をもとに図面を作成するのが一般的でした。しかし、現地測量には時間と工数を要するうえ、その人のスキルに依存する作業のため、今後より人材不足が深刻化した場合、測量作業自体がおこなえなくなる懸念があります。
そこで、ある企業で現地測量に代わって点群データを用いた図面作成をおこなった結果、作業時間を約40%削減し、さらに事業費の削減にも成功しました。
図面なしでも3Dモデルが作れる
通常、1から3Dモデルを作成する場合、設計図が必要になります。しかし、点群データを活用すれば、点群データが持つ現物の位置情報をもとに作成した3Dモデルをパソコン上に取り込むことで、図面がなくても3Dモデルを作成できます。
正確な2D図面を作成できる
点群データがあれば、物体の寸法や形状などが分かります。点群データを元に作成した3Dモデルを平面図・立面図・断面図などの2D図面へと落とし込むことで、従来の測量よりも正確な図面を作成できます。
点群データを活用する際の注意点
点群データを活用する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。そのポイントを3つ解説します。
点群データはそのまま活用できない
3Dスキャナにより得られた点群データを活用する際は、使用するソフトとの互換性を確認する必要があります。
点群データは、位置情報(座標、法線方向)や色情報などを持っていますが、点の集合体でしかなく、点群のままでは使うことができません。そのため、3Dデータとして取り扱う場合は、点群データを点から面の状態へ変換する必要があります。面の状態へと変換したデータは、メッシュデータやサーフェスデータと呼ばれます。
メッシュデータは、点群の各点を頂点とし、ポリゴンと呼ばれる多角形(三角形や四角形など)で頂点を結んでいくことにより作られます。一つの図形を細かい多角形でつなぎ合わせていくため、全体的に角張った見た目となります。
一方サーフェスデータは、数学的な表現によって曲面を表現したものです。一つの図形を一つの面で作るため、メッシュデータと比べると滑らかな見た目となります。
このように、点群データを活用するにはデータを変換する必要があります。
また、変換したデータを編集・加工するソフトウェアによって適したフォーマットが異なるため、しっかりと互換性を確認しておきましょう。
ノイズを取り除く必要がある
取得した点群データは、あらかじめノイズを取り除く必要があります。
理由は、例えばレーザースキャナなどを使用して測定した場合、物体表面にレーザーを照射した際に、細かい凹凸や穴、光沢などの影響でノイズが発生し、正しく点群データを取得できない場合があるためです。
使用するソフトウェアによっては自動でノイズを除去する機能が搭載されていますが、最後は人の手でノイズ除去をおこなう必要があります。そのため、データの精度を高めようとすると多少の手間が必要となる点には注意しましょう。
データの容量によっては処理に時間がかかる
取得した点群データの容量によっては、処理に時間がかかる点にも注意しましょう。
作成する3Dデータの形状再現性をより高めるには、もととなる点群数を増やすことが必要です。しかし、データ量が重くなるため編集や読み込みに時間がかかる可能性があります。
作業をスムーズにおこなうには、高スペックのパソコンや高機能のソフトウェアを導入する必要があり費用がかかります。どこまでの精度を追い求めるかは、導入する設備の予算なども考慮したうえで決定するとよいでしょう。
点群データの活用方法
続いて、点群データの活用方法をご紹介します。
リバースエンジニアリング
点群データの活用方法として、リバースエンジニアリングが挙げられます。
リバースエンジニアリングとは、既製品の構造を分析し、その製造方法や構成部品などを明らかにする手法です。
例えば、製造業の分野では、自社製品の開発・改良化のためや分析した部品の図面化を目的におこなわれています。通常、部品を加工するには図面が必要です。図面には、材料の種類から形状、寸法など、加工に必要な情報が記されています。
しかし、古い部品だと図面が存在しないことも多く、メーカーの製造自体が終了している場合もあります。そこで、リバースエンジニアリングでスキャナーを用いて現物の点群データから3Dモデルを作成すれば、既存製品をコピーして作成することができます。また2D図面へと展開することで、部品の製造・加工が可能になります。
製造業のほかにも、リバースエンジニアリングはさまざまな業界で活用されています。例えば航空業界では、昭和から製造を続けている手書き図面しかない航空機部品をCADデータへと落とし込む際に活用されています。
CADデータ化するにあたっては、もとの図面どおりに再現するだけでは意味がありません。現物の欠けや摩耗状態、さらには組み合わせる部品との相性を考慮し、不具合が出ている箇所まで再現する必要があります。その点でもリバースエンジニアリングが力を発揮しています。
また、自動車や医療用器具の部品などでも、量産に向けた計測や試作品の検証をおこなうためにリバースエンジニアリングが活用されています。
リバースエンジニアリングについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
リバースエンジニアリングとは?3Dデータを活用した手法やメリット、ソフトの選び方を解説
また、東京貿易テクノシステムで取り扱っているリバースエンジニアリングソフトウェアについては、以下の製品ページをご覧ください。
文化財のデジタルアーカイブ化
点群データは文化財の保護活動の分野でも活用されています。
近年、歴史ある寺社や文化遺産などで、仏像や神像の盗難被害が増えています。そこで、3Dスキャンにより得られた文化財の点群データから本物そっくりの3Dモデルを作成する取り組みが進められてきました。
3Dモデルから実物へと成形する工程では3Dプリンタを用い、さらに本物と同じように着色をしていきます。完成したレプリカを現地に納め、本物は博物館で保管することにより、文化財の保護と信仰環境の維持が両立できるといわれています。
和歌山県立和歌山工業高等学校様 – 東京貿易テクノシステム株式会社:TTS (tbts.co.jp)
デジタルツインの実現
デジタルツインは、現実世界を仮想空間に再現したものです。DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するため、近年デジタルツインを活用した現状分析やシミュレーションが広がり始めています。
デジタルツインを支える技術の一つに、CAE(Computer Aided Engineering)があります。これは、実際に試作や実験をせず、パソコン上でさまざまなシミュレーションをおこない、工学的な問題を解決する手法です。このシミュレーションを実施する際には3Dモデルが必須ですが、そこに点群データが活用されています。
デジタルツイン実現に向けたプロジェクトは、すでに国家主導で進められています。実際、2024年3月29日時点で全国211都市の形状を3Dデータ化しており、まちづくりや防災における高精度なシミュレーションを実施する際に3Dモデルが活用されています。
デジタルツインについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
デジタルツインとは?製造業で導入するメリットやシミュレーションとの違いなどを解説
災害査定
災害査定とは、自然災害によって被害を受けた道路・河川などの復旧工事をおこなう際、国の負担額を決定するために実施する調査のことです。
従来の災害査定では、査定官が現地を訪れて被害の程度を確認し、復旧工事に必要な工法や費用の調査をおこなっていました。しかし、実際に被害が発生している箇所では現地調査自体が危険をともないます。また、一刻も早く復旧工事を始めるためには、災害の規模や状況の迅速な把握が必要です。
そこで政府は、災害復旧事業にデジタル技術の活用を推進しており、すでに何件かの活用例が出てきています。例えば、大雨にともない崩壊した急斜面の土量を算出するため、被災前後での点群データを比較し、対応策を迅速に検討する試みがおこなわれています。
まとめ
点群データは、その汎用性の高さから、製造業はもちろん、文化財保護やDX、災害対策など幅広く応用されています。今後デジタル技術がさらに進化を遂げるなか、活用の範囲はさらに広がっていくでしょう。
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