フォトグラメトリは、従来は計測が難しかった対象でも手軽に3Dデータ化できる方法として、製造業を中心に近年注目を浴びています。
この記事では、フォトグラメトリの概要や歴史、従来の3Dスキャンとの違い、実際にフォトグラメトリを利用して3Dデータを作成する方法や導入事例などを詳しく説明します。
フォトグラメトリとは?
フォトグラメトリは、写真をもとに3Dデータを生成する技術です。さまざまな角度から撮影した物体の写真データから、精度の高い3Dデータを作り出すことができます。
技術の歴史は古いですが、近年コンピュータの処理技術が向上したことにより、スマートフォンなど身近なカメラでも3Dデータを作成できるようになりました。技術の発展により、多くの業界で活用・注目されています。
フォトグラメトリが注目されている理由とその歴史
フォトグラメトリの起源は19世紀半ば頃といわれており、測量で使用されていたものが始まりです。現在ではその技術を応用して、工学や品質管理などの分野で広く活用されています。
近年では、デジタルカメラやスマートフォンなどの身近なカメラを使って、工業製品を手軽に測定できるようになりました。また、従来は飛行機を用いておこなわれてきた航空測量もドローンの登場により進化を続けており、危険な現場での地形調査や測量を可能にする技術として注目されています。
その他に、写真から3Dデータが作成できる特徴を活かし、手に触れることが難しい美術品をデータ化し保存する取り組みもおこなわれてきました。また、近年急速に進歩しているVRやARなどの仮想空間とも相性がよいといわれています。
フォトグラメトリと3Dスキャンの違い
現実の物体から3Dデータを作成する方法はフォトグラメトリ以外にも存在します。代表的なものとして、3Dスキャナを用いてレーザーで対象物をスキャンする方法があります。
フォトグラメトリの場合、さまざまな角度から撮影した複数枚の写真を組み合わせることによって3Dデータを作り出します。一方、3Dスキャンの場合は、対象に照射したレーザーの反射光を読み取り、三角測量の原理で距離を計測し3Dデータを作り出します。
フォトグラメトリと3Dスキャンは、導入にかかる設備コストが大きく異なります。フォトグラメトリは物体の写真を準備できればよいため、個人で利用する場合は手持ちのカメラやスマートフォンさえあれば実施可能です。一方、3Dスキャンは専用の設備が必要となり、求める精度によっては数百万円のコストがかかります。
フォトグラメトリは手軽に始められる反面、高精度の3Dデータを作るには膨大な数の写真を撮影する手間がかかり、撮影には高い精度が求められます。しかし、3Dスキャンは数秒~数十秒と短い時間で撮影が可能です。そのため、生成する3Dデータに求められる精度や予算などを考慮しながら、導入する技術を検討する必要があります。
3Dスキャナについてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
3Dスキャナとは?カメラ式非接触型、パターン光投影法などを解説
フォトグラメトリのメリット
ここでは、フォトグラメトリを活用することのメリットをご紹介します。
リアルな3Dモデルを作成できる
前述したように、フォトグラメトリは対象の写真を3Dデータ化するため、形状だけでなく表面の質感や色合いなどの見た目も含めて、リアルに再現できる特徴があります。
3Dスキャンでは短時間で対象の形状をとらえることができる反面、見た目(テクスチャ)のデータを取り込むには別途カメラが必要です。その点、フォトグラメトリは最初から写真を使っているため、よりリアルな3Dモデルを手軽に作成できます。
比較的安価に3Dモデルを作成できる
フォトグラメトリを導入すると、比較的安価に3Dモデルを作成できるようになります。フォトグラメトリは、スマートフォンの急速な普及にともない、これまで以上に導入のハードルが下がりました。
従来は、カメラと別に専用のソフトウェアを準備する必要がありました。しかし、昨今では手軽に3Dデータを作成できるスマートフォンアプリが登場したことで、趣味程度であれば専用のソフトウェアなしでも導入できます。
フォトグラメトリを活用する際の注意点
続いて、フォトグラメトリを活用する際の注意点を見ていきましょう。
対象物の材質によって向き・不向きがある
フォトグラメトリで3Dデータを作成する場合、対象物によって向き不向きがあります。
それぞれ以下の通りです。
撮影に向いているもの | 撮影に不向きなもの |
---|---|
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|
例えば、透明なものや表面の凹凸がなくツルっとしたものなどは、写真を解析するための特徴を見つけられず、データの欠損が生じてしまいます。
また、金属や鏡など光沢があるものは撮影するアングルによって反射の度合いが大きく異なるため、対象の特徴を正しく解析できません。
重複する模様や繰り返し同じ模様があるものは、仮にアングルを変えて撮影をしても特徴が判別しづらくなり、正確にデータを構築するのが難しくなります。
対象が動く場合、撮影によるブレや位置のズレが生じてしまいます。その結果、特徴はとらえられてもうまくデータ同士を統合できません。
他にも、真っ黒なものや毛羽立ったもの、煙や炎などの実体がないものも、うまく形状をとらえることができません。このように、対象の素材によって向き不向きがあることを覚えておきましょう。
天候や明るさに左右されやすい
写真を使う性質上、フォトグラメトリは、天候や明るさなど周囲の環境変化に影響を受けます。
晴れの日であれば太陽光が降り注ぐなかでの撮影となりますし、曇りや雨の日ならば別途照明が必要となるでしょう。暗いなかでの撮影になると、明るさを確保するためにシャッタースピードを遅くする必要があります。すると、ノイズや手振れが発生します。フォトグラメトリでは、写真の画質や解像度が3Dデータの品質を決定するため、ノイズや手振れが少ない写真を撮影する必要があります。
また、物体の写真をさまざまな角度から撮影するため、対象物以外の物体が映り込むことで影が発生する可能性もあります。しかし、影が映り込んだ写真とそうでない写真を一つのモデルとして合成するのは難しいといわれています。両者を合成するには、別途影部分を個別に撮影した写真を用意したり、編集したりする必要があり、手間が増えてしまうでしょう。
フォトグラメトリを活用して3Dデータを作成する方法
続いて、フォトグラメトリを活用して3Dデータを作成する方法をご紹介します。
STEP1:必要な機材やソフトウェアを準備する
まずは、フォトグラメトリをおこなうために下記の機材やソフトウェアを準備しましょう。
- カメラ
- パソコン
- 3Dデータ制作用のソフトウェア
物体の写真を撮影するためのカメラ、撮影した写真を取り込むためのパソコン、そして3Dデータへと変換していくためのソフトウェアの3点があれば、フォトグラメトリをおこなうことができます。それぞれ、どのようなものを選ぶとよいかを順番に解説します。
カメラ
カメラはスマートフォン一つあれば撮影が可能です。前述したように、最近ではスマートフォン上で動作する専用アプリも登場してきたため、より手軽にフォトグラメトリをおこなえるようになりました。
ただし、より高画質・高精細な写真を撮影したい場合は、デジタル一眼レフカメラなどの専用機を準備するとよいでしょう。なお、よりリアルな3Dデータを作成するために高画素数のカメラを選ぶと、ノイズや手振れが起こりやすくなる点には注意が必要です。
また、目的によっては建造物やエリア撮影など大きな構造物を撮影する可能性も出てきます。そのような場合は、ドローンを用いて撮影(航空測量)することもあります。
パソコン
パソコンでは、撮影した写真を撮り込み、専用ソフトウェアにより3Dデータへと変換する作業をおこないます。
パソコンに求められるスペックは、使用するソフトウェアにより異なります。ソフトウェアの要求スペックと推奨スペックの記載を確認しましょう。
要求スペックとは、ソフトウェアを使って作業をおこなうために必要なレベルです。このスペックに達していないとパソコンへの負担が大きくなり、そもそも作業自体をおこなえません。
推奨スペックは、ソフトウェアを使ってスムーズに作業をおこなうために必要なレベルです。推奨スペックを満たしていれば、動作が重くなることもなく、速く作業がおこなえます。予算との兼ね合いにはなりますが、推奨スペックまで満たすほうが望ましいでしょう。
3Dデータ制作用のソフトウェア
ソフトウェアは多くの企業からリリースされており、大きくは有料版と無料版の2つに分けられます。両者の違いは、使用できる機能の数や写真の枚数などです。有料のソフトウェアは機能も充実していますが、初めてフォトグラメトリをおこなう場合は、まずは無料のソフトウェアを使い、慣れるところからスタートしてみるとよいでしょう。
STEP2:対象物を撮影する
機材が準備できたら、実際に対象物を撮影していきましょう。先ほど解説した注意点を考慮しながら、少しずつ角度を変えて撮影をおこないます。
屋外で撮影をする場合、晴れた日だと太陽光による影が発生してしまうため、なるべく曇りの日に撮影するのがおすすめです。また、角度を変えて撮影する際は、手振れが発生しないよう注意します。照明を使う場合は、光の強さや反射などで色が白く飛んでしまわないよう工夫しましょう。
STEP3:撮影データを読み込んで3Dデータを調整する
撮影した写真はパソコンに取り込み、ソフトウェアで読み込みます。
撮影の段階でブレのない高精度な写真を撮ることができれば、現物の形状や見た目どおりの3Dデータを作成できます。見た目の部分で違和感がある場合は、修正をおこないます。
フォトグラメトリの活用例
ここでは、フォトグラメトリがどのように活用されているのか、実際の活用例もご紹介します。
工業製品の寸法計測や測定
自動車など大型の物体を製造する現場では、工業製品の寸法測定にフォトグラメトリが活用されています。
一般的に大型の物体を計測する場合は、測定機を移動させながら計測をおこないます。しかし、計測場所によっては電源やケーブル類の取り回しや機器の運搬などの不便さをともなうため、計測自体が難しいケースもあります。
そこでフォトグラメトリを活用すれば、任意の角度から物体の撮影をおこなうだけで3Dデータの作成が可能です。また、カメラはバッテリーで駆動するため、ケーブルも不要です。
最近では、自動車に代表される比較的大型の製品の寸法計測をおこなう際の最適な方法として、国家機関にも認証されています。
史跡や美術品などのデジタルアーカイブ化
歴史的・文化的な遺産や美術品など、手に触れることのできない物体では、写真を撮影するだけで3Dデータ化できるフォトグラメトリが大きな効果を発揮します。セキュリティや状態の関係で外部への持ち出しが難しいような貴重な資料や作品を、状態を維持しながら記録・再現することで、その価値を次世代に正確に伝承できるようになります。
仮想空間での活用
フォトグラメトリは、近年さまざまな分野で注目されている仮想空間での活用も期待できます。例えば、以下のような活用法が考えられます。
- ECサイトで製品を3Dモデルとして表示
- オンラインでの物件内見
- ゲームやメタバース空間で用いるアバターの作成
- VRやAR上でアーティストのライブパフォーマンスの鑑賞
- 実際のゴルフ場をVR空間に再現し疑似体験
デジタルツインの作成
デジタルツインとは、現実世界から得られたデータを仮想空間(デジタル)上に再現する技術で、基本的に現実世界とリンクしています。具体的な用途としては、IoTやAIを駆使して実際の製造現場を再現することなどが挙げられます。その空間上に取り込む3Dデータを作成するために、フォトグラメトリが活用されています。
デジタルツインについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
デジタルツインとは?製造業で導入するメリットやシミュレーションとの違いなどを解説
ドローンを活用した測量
ドローンを活用した測量現場でもフォトグラメトリは活躍しています。従来、航空写真(空中写真)測量法という、飛行機を利用したフォトグラメトリがありましたが、飛行機を使う性質上、近づくのが困難な場所もありました。そこに近年、ドローンが登場したことで、従来は難しかった場所でも測量をおこなえるようになりました。
ドローンを活用した測量の具体例は以下のとおりです。
- 高速道路や空港などの点検や調査
- 急な斜面や崖の落石調査
- 敷地の境界の調査
東京貿易テクノシステムのフォトグラメトリ「DPA」の紹介
最後に、東京貿易テクノシステムが展開するフォトグラメトリ「DPA」をご紹介します。
DPAは、高解像度のデジタルカメラを用いた非接触の三次元測定機です。測定箇所にターゲットシールを貼り、その位置をカメラで撮影するだけで、計測が完了します。ワークのサイズによっては、数十ミクロンの精度で対象の3Dデータを作成できます。
計測時に必要となるのは、デジタルカメラのみ。小型で持ち運び可能なのはもちろん、バッテリーで駆動するため屋外でも問題なく使用できます。その携帯性を活かし、従来の3Dスキャンでは難しかった自動車のような大型製品も容易に計測できるのが大きな特徴です。
DPAは、人工衛星による宇宙研究にも役立てられています。人工衛星はアンテナや観測機材などを搭載しており、さまざまな情報を宇宙空間から地上へ届けています。その情報を安定して届けるために、どのような環境でも変形やズレが起こらない構造体が求められます。
そのために、開発段階から宇宙空間を再現した環境下での実験など、ときには過酷な条件下での検証がおこなわれていますが、その検証作業に、DPAが活用されています。
詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
写真撮影という比較的身近な方法を用いて、大型の設備を使うことなく対象の3Dデータを作成できるフォトグラメトリ。取り込んだ3Dデータは製造業だけでなく、近年注目されているメタバースやデジタルツインなど、仮想空間上への応用も可能なため、広く注目を集め始めています。
手軽に高精度の3Dデータを作成したいとお考えの際は、ぜひ東京貿易テクノシステムのDPAをご活用ください。
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