レーザートラッカー

『ロボットを用いた自動化、ミクロン精度で位置の分かる3次元測定が役立つ』

東京貿易テクノシステムは、3次元測定に関するハード、ソフト、システムの全てをエンジニアリングできる企業。「Leica Laser Tracker」を利用した非接触3次元測定システムを用いて、20mを超える大型構造物でも150μm以下の高精度で計測できる。同技術を利用することで、ロボットの腕の位置を正確に制御でき、「組立支援計測システム(自動化アプリケーション)」を提供できる。

長さ12mもの桁(けた)を多数組み合わせて作る長大橋。設計通りの精密な寸法で桁を製造できているかどうかが、強く求められる。

巨大な桁を相手にしたとき、最適な測定手法は何だろうか。東京鉄骨橋梁の事例を紹介する。同社は新手法を導入することで1日当たりに測定できる桁の数を増やしつつ、測定コストの低減にも成功した。人手がかからないソリューションだという。

同じ測定技術が、ロボットを用いた自動化アプリケーションにも役立つ。精密な位置をリアルタイムで把握することによって、人手を借りなくても、測定もしくは組み立て作業を自動化できるからだ。

航空機や車両・建設機械といった大型の部材を扱う産業はもちろん、医療機械の計測・組み立てにおいても役立つという。

東京鉄骨橋梁は創業102年、老舗のメーカーだ。長大橋に用いる橋梁や、ビル用の鉄骨を設計、製造している。1990年以降の事例を挙げるなら、橋梁では、レインボーブリッジ(東京都)や名港トリトン(愛知県)、明石海峡大橋(兵庫県)など。鉄骨では横浜ランドマークタワー(神奈川県)、東京ビッグサイト(東京都)、GINZA KABUKIZA(東京都)など、知名度の高い多数の施設を手掛けている。

橋梁や鉄骨では、仕様通りの部材を期限までに供給することが第一だ。特に橋梁の部材はいったん現場に運び込んだ後、再び工場に持ち帰ることができない。そのため事前に、寸法を正確に把握する技術が必要だ。

図1:MONMOSの測定風景

東京鉄骨橋梁が採用していた従来の手法は、「トータルステーション(MONMOS:マンモス)」と呼ぶ光波測定機を用いたもの。この手法では、まず測定したい物体の表面に光を反射するシート状の計測ターゲットを多数貼り付ける(図1)。計測ターゲットには十字で区切られた円が描かれている。その後、測定機本体から光波を送り、反射波が戻ってくるまでの時間を記録し、距離を自動的に算出する。

長らく光波測定機を用いた計測技術を利用してきたものの、同技術には課題が大きく2つあった。(1)必要な人員が多く、1日当たり測定できる桁の数が少なかったこと、(2)測定作業にミスがあった場合、手戻りが起こることだ。従来技術はコスト高でもあったため、課題の改善につながる独自技術の開発を目指すことになった。

さまざまな計測技術を多角的に検討した結果、工場設備や計測条件などに合致したことから、レーザー計測技術を利用することに決定。新技術の開発を進め、2013年に「簡測くん」が誕生した。簡測くんは、東京貿易テクノシステムが販売・サポートする3次元測定システム「Leica Laser Tracker AT401」を用いたソリューション。実績は既に21工事に達し、従来技術と比較しても十分な効果が現れてきている。国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)にも登録し、広く普及を図る活動も進めている。簡測くんを導入したことで、1日当たりに可能な計測台数は従来比の約2倍となった(図2)。「何よりも測定操作を1人で完結できるようになったことが大きい」(同社)。

図2:観測くんを用いた測定風景(対象物のそばで作業する)
図3:治具にリフレクタを載せ、手元の端末で測定しているところ

手戻りの課題はどのように解決したのだろうか。測定者がその場で計測値を把握できるようなソフトウェアを導入したことだ。測定結果を入力し、表示するのはカナダInnovMetric SoftwareのWindows版ソフトウェア「PolyWorks」。同ソフトウェアはiPhoneなどiOSを利用した端末でもビュワーが動作する(図3)。

ビュワーでは、測定点ごとにX、Y、Z座標について、設計図から導き出した長さ、測定値、偏差、合否判定を閲覧できる(図4)。合否判定だけを見ていても、測定ミスが即座に分かる。測定対象の結果を一覧する際はノートPCを用いる。

図4:測定後のPolyWorksの画面例

治具を共同開発

東京鉄骨橋梁が従来技術に限界を感じていたとき、導入を検討した技術は大きく2つあったという。デジカメを用いた計測システムが1つ、もう1つは東京貿易テクノシステムと幾分似たレーザー3次元計測システムだ。デジカメを用いた計測システムは、従来技術と比較して、導入コストが低いことに特徴がある。だが、大きく2つ欠点があった。まずは桁に専用のマーカーを複数貼り付けなければならないことだ。これでは測定時の作業工程の大幅な削減を見込むことができない。もう1つは桁から一定距離以上、離れて測定する必要があること。「当社の測定建屋ではデジカメ計測に見合った広い空間を用意できませんでした。デジカメを用いた技術では、桁を複数並べて測定する場合(図5)にも対応できません」(同社)。

図5:桁を並べて測定できなければならない
(簡測くんを利用しているところ

レーザー3次元計測システムを導入する際、複数の企業から東京貿易テクノシステムを選択した理由は、測定機材の開発で協力が得られたことだという*1)。

*1) 東京貿易テクノシステムは、メーカー部門を備えており、このような開発に対応できる。なお、同社はスイスLeica Geosystemsから、認定レベル2の資格を取得しており、機材の交換や修理、校正作業にも対応できる。

まずは測定用の専用治具だ。例えば、3つの面が交差した頂点(立方体の頂点など)の座標を求めようとすると、面を決定するために3回、合計9回の測定が必要になる。専用治具を使うことでこれを3回に減らすことができた。

「当社が治具の仕様と要望を出し、東京貿易テクノシステムが1~2カ月で完成品を作り上げました」(東京鉄骨橋梁)。簡測くんのシステムでは、本体(Leica Laser Tracker)が発したレーザーを、「リフレクタ」と呼ぶ球体が反射することで距離を測定する。リフレクタは互いに90度をなして配置された3枚の鏡を内蔵しており、どの方向から受け取った光でも、入射方向に反射する。リフレクタの直径は正確に決まっているため、測定点上にリフレクタを置くことで、本体からの相対座標を求めることができる。

図6:簡測くんの開発・導入を推進した東京鐵骨橋梁生産本部生産設計部で副部長を務める宍戸氏(左)と生産設計部生産設計課で係長を務める深川氏(手前にあるのは4種類の治具と測定対象の桁を模した鋼材

桁の測定位置に応じて4種類の治具を用意した(図6)。うち3種類にはリフレクタを載せる窪みが3つ備わっており、順に載せていけば測定が終わる。3種類ある理由は、桁の位置によって治具の形状を変えなければならないからだ。桁の角にRが付いている場合でも、治具を使うと、正確な座標を取得できる。

4種類目の治具は、直接桁に載せることができない底面などの座標測定に用いるため、関節が2つ付いた腕の形を採る。
「治具だけでなく、測定結果をPolyWorksに入力するために必要な複数のマクロの開発も東京貿易テクノシステムにお願いしました」(東京鉄骨橋梁)。

治具や各種マクロを開発したことで、作業効率の向上は当然のことながら、国土交通省のNETISに新技術として登録することができ、受注活動にも大きく貢献しています」(同社)。

東京鐵骨橋梁株式会社様

(※現社名 日本ファブテック株式会社)

1914年8月の創業以来、鉄骨·橋梁の専業メーカーとして建物に高品質な鉄骨を提供し、様々な橋の製造から架設までを行うことで人々の暮らしに貢献。高度経済成長の時代には超高層ビルや高速道路網などの交通インフラの根幹を担う工事を、数多く担当。大型プロジェクトにも参画し高度な技術を生かして、東京都庁、横浜ランドマークタワー、明石海峡大橋、レインボーブリッジなど日本を代表する鉄骨橋梁を数多くてがけました。近年においても東京オリンピック関連工事、都市高速道路や鉄道の大型工事など官民問わず様々な実績を積み上げています。

http://www.j-fab.co.jp/index.html

【この事例で紹介された製品】Leicaレーザートラッカー

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