・自動車軽量化のため、加工が難しい高張力鋼板を生産
・非接触三次元測定機で工程パネルを高精度で測定し短期間で高品質パネルの作り込みを実現
複数の国内大手自動車メーカーに部品を供給している株式会社ワイテックは、シャシーやボデーなどの大型部品のほか、ペダルやレバーなどの機能部品、複雑な機構を支えるミッション・エンジン部品を設計・開発・製造しています。年々高まる安全基準や納期短縮化など厳しい条件のもとでも品質を向上させ、常に一歩先の技術を目指している企業です。
工場内で働く従業員の作業環境に配慮しているのもワイテックの特長です。人間工学の視点から製造ラインを見直して腕力がない従業員でも負担なく作業できるように変え、物理的なからくりを応用して大型部品を扱いやすい仕組みを導入。工夫のおかげで業界では珍しく女性が多く働く職場になったといいます。
近年は自動車分野の技術開発が進み、薄くても強度が高い高張力鋼板(ハイテン材)の採用が増えました。材料の強度が上がるほどパネル成形は難しく、対策には早い段階での精密な測定解析と修正が求められます。そこで2015年3月に導入されたのが東京貿易テクノシステムの非接触三次元測定機「COMET」でした。
これまでの測定機では何が問題だったのか、COMET導入後は何が変わったのか、担当の皆さんにお話をお聞きしました。
プレス生技部 解析グループ 主任 川田隆彦さん
プレスした後の完成パネル・金型など測定した結果から、シミュレーションへの応用や成形性の評価を行っている。
プレス生技部 解析グループ 東澤聖也さん
解析グループの一員として測定・分析を行い、他部門と情報共有して精度育成に役立てている。東澤さんが開発した板厚測定の新技術は、現在東京貿易テクノシステムと連携して特許申請中。
プレス生技部 解析グループ 嶋田拓海さん
解析グループの一員として測定結果をCADデータと比較して他部門と連携させるほか、コマンドを使った測定効率化なども担当している。
金型製作部 金型製作グループ 増谷和輝さん
金型製作の現場で解析グループのデータを活用、製造技術者の声を解析者へ伝えてより正確な測定・修正につなげるなど情報の橋渡しを担っている。
新材料の採用で、工程パネル測定が必須になった
2015年に非接触三次元測定機「COMET」を導入されました。きっかけは何でしたか。
大きな背景として、その少し前から自動車業界全体が環境性能や衝突安全性を考えて「車体の高強度・軽量化」を目指し始めました。その中で採用されたのが、高張力鋼板(ハイテン材)や超高張力鋼板(ウルトラハイテン材)という非常に強度が高い材料です。板厚を薄くしてもこれまでの鋼板と同等の強度が得られ、部品は大幅に軽量化できます。
ただ、材料の強度が上がるとワレ・シワやスプリングバック(プレス加工後に元に戻ってしまう現象)など加工上の問題が起きやすくなります。そのため精度の作り込みが難しく、何回かの形状測定と精度見込み修正が必要になります。なるべく早い段階から成形途中のパネルを測ってどこが悪いか的確に掴み、ピンポイントで悪いところを直すというプロセスを実現したいと考えました。
以前は完成パネルのチェックがメインだったのでレーザー式測定機を使っていたのですが、工程測定回数の増加と大型部品の取り回しを考えると、非接触式の三次元測定機を新たに導入したほうが便利でした。
それにシャシーやボデー部品はとても大きいので従来の測定機で測るには自分が動かなければならず、腰を曲げたり伸ばしたりする作業が身体的に厳しい。夏は暑く冬は寒い工場内で測らなければいけないのも負担です。非接触三次元測定機なら整った環境で測定でき、装置を動かして短時間で測定できる点も楽だと考えました。
導入前は、同業他社の製品も比較検討しましたか。
はい、ある1社の製品を比較検討しました。単体費用だけ考えると他社のほうが安かったのですが、必要な機能の開発費用まで入れると東京貿易テクノシステムのほうがリーズナブルだったので、トータルコストを比較してこちらを選びました。
また、他社製品は測定データの補正がとても強く、ちょっとした凹みやキズはデータを均してきれいに表示してしまう点が問題でした。画面上はとても整って見えますが、私たちが欲しいのは「測定物の正確な形状」です。ほんの少しの凹凸や形状変化も捉えて、パネルや金型に修正を反映させなければいけません。知りたい情報を正確に知る、そのニーズに合致するのはCOMETでした。
最大画素数の多さも大きな決め手になっています。レーザー式測定機の画面を見慣れていたので、パッと見たときに「広い範囲がこんなに早くきれいに分かるのか」と感動しました。取得した点群がレーザー式測定機に比べて、想像以上に滑らかだったので「物に対して真面目に測っている装置だな」という印象も受けました。使用ソフトが「spGauge」と「spScan」で、これまで自分たちが使っていたソフトがそのまま使える点もありがたかったです。
導入してみて、どんなメリットがありましたか。
測定スピードが上がり、測定できる数が大幅に増え、加えて測定精度も向上しました。従来の測定機で測定に使っていた労力を100とすると、ハイテン材採用後は測定回数と測定部品の数が増えて労力が200になることが予想されていました。しかしCOMETなら測定の身体的負担が減り、かかる時間も短縮されます。測定回数と測定部品が増えても労力の総計は80くらいで済んでいる感覚です。
量産準備期間はどんどん短くなり、後工程からも「パネルが出たらすぐに精度修正に回したい」といった要求が出ます。測るよりも直すほうに時間をかけたいのが現場の本音です。短時間ですぐに測定結果を伝えられるようになったので修正サイクルは早くなりました。
金型製造とデータを連携、品質育成のスピードが加速した
そのほかに導入したメリットを感じるときはありますか。
工程パネルの板厚や金型を測定し、その数値をシミュレーションに応用することで机上検証の精度が非常に上がりました。シミュレーションの段階でかなり作り込めるようになり、実際のパネルや金型の修正回数が減っています。修正する際も正確な数値を金型製作部に伝えられるので、早い段階で高精度の直しが実現できています。測定した点群とCADの比較を行って干渉部分を事前に削ることも可能です。
正直なところ、以前は机上検証と製作現場の連携はうまく取れていなかったと思います。感覚値で議論することもあり効率的とはいえませんでした。机上検証担当者は現場の細かなことが分からず、製作現場担当者は机上検証が分からない。お互いの仕事を知る機会も少なかったからです。
しかしCOMET導入後は、正確な測定値とカラーマップのおかげで「どこがどれくらい歪んでいるか」を一目で共有できます。金型技術者にとっても「これくらい手を動かしたら0.何mm削れる」「どの部分を削るべき」と数値と色ではっきり分かるので、感覚と現状を擦り合わせた技術向上にも役立っています。
また、以前は1個目の金型で品質を整えても、手で削った部分の変更データがなかったため2個目、3個目の金型を作るのに1個目と同じくらい時間がかかりました。今はデータから手早く2個目以降の金型を製作できます。手作業で修正した部分までCADに織り込んで、正確な形状を機械加工で作れるようになったからです。
解析チームと金型製作チーム、自社と他社など、正確性が担保されたCOMETの測定値を介して部門同士の情報交換が増えたと思います。今は測定値について定期ミーティングを行っているほどで、おかげで品質育成のスピードはずいぶん加速しました。正しい情報をもとに話し合えるありがたみを実感しています。
装置やソフトの使い勝手はいかがでしょうか。
測定物をどの角度から捉えればいいか、それはなぜか、という基本的な知識は必要だと思います。その点は、導入時に東京貿易テクノシステムの講習を受けて分からないところをしっかり教えてもらいました。今は社内だけで使い方の教育を行っています。
自分たちでも活用法を研究しています。最初は工程パネルの形状を測る目的で導入したのですが、「板厚を測れないか」と提案があったので試行錯誤したところCOMETで正確に測定する方法を見つけることができました。これまでは板厚を正確に測定するのが難しかったのですが、測定方法の改善を重ね、何度も検証して正確な数値が取れている確証を得て、現在、この技術について東京貿易テクノシステムと連携して特許を申請しているところです。
測定のスピードアップだけでなく、部門間の連携や技術開発にも好影響があったのですね。今後はどのような活用を予定していますか。
私たちの性能指標で大切なのは、スプリングバックと板厚の精度です。シミュレーションとの整合性を高めて完成度を上げていく上では非常に役立っているので、これからも測定値を応用しながら精度を高めていきたい部分です。
もしできれば測定機を導入している他社と交流して、どのようにCOMETを活用しているのかを知りたいですね。もちろんこちらからも板厚測定のような独自技術を伝えることができますし、お互いの知識で飛躍的に作業を効率化できるかもしれません。実際に技術について見学に来られる企業もあります。そういった機会作りについては今後の東京貿易テクノシステムに期待しています。
株式会社ワイテック様
広島市を拠点に設立されたヤマコー株式会社と三葉工業株式会社が2001年に合併し、株式会社ワイテックが誕生。現在は複数の大手自動車メーカーから直接受注して自動車部品製造、金型設計製作、組立冶具設計製作を手がけ、広島県内を中心に国内9工場・海外5拠点を展開しています。メーカーと深く連携した設計・開発・製造の一貫生産を得意とし、部品の高強度と軽量化を実現する技術力が高く評価されています。
【この事例で紹介された製品】COMET
※COMETは製造・販売を終了しております。なおサポートは継続しております。詳細については担当営業までお問い合わせください。
また、リンクよりカメラ式非接触3Dスキャナの新商品であるFLAREシリーズのページをご覧ください。