LiDAR(ライダー)とは、レーザーを用いた測定技術のことです。
従来は自動運転や航空測量分野でおもに利用される技術でしたが、近年では、製造業での品質管理やインフラ点検など幅広く活用されるようになりました。
この記事では、LiDARの基本原理や種類、活用事例、導入時のポイントなどを解説します。
LiDARとは?基本原理と仕組み
この章では、LiDARの測定原理や他の3D計測技術との違いを解説します。
LiDARの定義とは
LiDARとは、Light Detection And Ranging(ライト ディテクション アンド レンジング)の略語です。対象物にレーザー光を当てて、反射した光の情報から、対象物までの距離や対象物の形を測定する技術を指します。
測定原理
LiDARの測定原理は、大きく分けると以下の2つです。
- ToF方式
- フェーズシフト方式
ToF方式は、レーザー光を瞬間的に照射したあと、対象物に当たって跳ね返るまでの時間を計測する方式です。
フェーズシフト方式では、一定のリズムで点滅するレーザー光を対象物に照射し、反射して戻ってきた光の位相差(タイミングのズレ)の大きさを測定します。測定された位相差を利用して対象物までの距離を測定する技術です。
LiDARと他の3D計測技術との比較
LiDAR以外の3D計測技術としては、主に以下の3つがあります。
- ミリ波レーダー
- 3Dレーザースキャナ
- 3Dカメラ
それぞれの特徴とLiDARとの違いを表に示しました。
名称 特徴 活用時のメリットと
デメリットLiDAR 対象物にレーザー光を照射して、反射された光を受信するまでの時間で距離を測定する
ミリ波レーダー 特殊な電波(ミリ波)を使い、対象物までの距離を測定する
3Dレーザースキャナ レーザーが反射して戻ってくる速度から距離測定をおこなう
3Dカメラ カメラの撮影機能を利用して、対象物の立体的な三次元映像を取得する
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LiDARとその他の計測技術は、いずれも対象物の立体的な情報を取得する機能をもつシステムです。しかしながら、それぞれ異なる手法で物体を検知しているため、活用できる場面には得手不得手があります。システムごとの特徴を正確に把握して、適切な場面で使用することが大切です。
LiDARの活用分野とメリット
この章では、LiDARの魅力や活用されている主な4つの分野をご紹介します。
測量・地形解析
LiDARは、計測精度の高さを活かし、航空測量や地形図作成などで用いられてきた技術です。
近年特に注目を集めているのが、LiDARで計測した3Dデータをもとに、対象物の構造を立体的に把握する、「3Dマッピングシステム」です。3Dマッピングシステムは、道路やトンネル、堤防など、さまざまな地理上の情報を3Dで取得し正確に表示できるため、都市計画や防災計画にも役立てられています。
自動運転・ADAS
LiDARと聞いて、真っ先に自動運転を思い浮かべる方も多いでしょう。自動運転の基盤を支える「ADAS」という機能には、LiDARの技術が不可欠です。ADASとは、Advanced Driver-Assistance Systems(アドバンスド ドライバーアシスタンス システム)の略で、先進支援運転システムを指します。
代表的なADAS機能12点のうち、LiDARが活用されている5点を表に示しました。
システム名 | 具体的機能 | |
---|---|---|
1 | ACC | 前の車を検知して車間距離を保ちながら走る機能 |
2 | FCW | 前の車を検知して、衝突の危険性が高まった際にドライバーへ警報を鳴らしたり、回避操作を促したりする機能 |
3 | AEBS | 衝突が免れないと判断されたときに自動ブレーキをかけて、被害を軽減する機能 |
4 | LDW | 車両が車線を逸脱していると、ハンドル振動やディスプレイ表示などで警告する機能 |
5 | LKAS | 前方のカメラで車線を検知して、車線からはみ出しそうになると警告音を出したり、ハンドル制御をおこなったりする機能 |
ADASは、運転中のさまざまな危険を回避する設備です。ADASが正常かつ安全に作動するためには、車両周辺環境の正確な検知が欠かせません。
LiDARの測距技術は、ADASの機能向上および自動運転の技術向上にも活かされています。
製造業・品質管理
製造部品の寸法測定でも、LiDARが導入されています。寸法検査とは、製品や部品が、仕様書もしくは図面どおりに作られているか調べる検査であり、品質の確認や維持のために重要な工程です。
従来の寸法測定は接触式のため、時間がかかり、対象物に傷がつく可能性もありました。LiDARは非接触式のため、対象物に傷をつける恐れがなく、高精度な寸法測定も可能です。
従来、工場で作られた製品の外観検査では、接触式検査をおこなうことが一般的でした。しかし最近では、製品に傷をつけることや精度を変えることなく、正確に検査ができる非接触式検査にシフトしつつあります。そのため、LiDARを始めとした非接触式検査の技術は、製造業や品質管理の分野でも活用場面が広がっています。
自律移動ロボットの運動管理
LiDARは、自律移動ロボットの運動管理にも対応しています。自律移動ロボットの主な例としてあげられるものは、以下のとおりです。
- 家庭用の掃除ロボット
- 飲食店での配膳ロボット
- 公共施設での案内ロボット
- 工場や倉庫でのピッキングロボット
- 工場および倉庫で荷物や部品を運ぶ自動搬送車
自律移動ロボットは、自分の位置を推定しながら周辺地図を構築し、周囲の人や物にぶつかることなく移動しています。
位置推定および周辺地図構築を同時に行う技術はSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれ、ここにLiDARが使用されています。
最新のLiDAR技術と今後の展開
この章では、LiDARの最新技術や今後の展開について解説します。産業分野での活用が多いLiDARですが、最近ではiPhoneやiPadに搭載されるようになり、一般の方も活用する機会が増えています。
小型化・低コスト化
LiDAR技術が開発された当初(1960年代)は、LiDAR機器も大型なものでした。しかし最近は小型化が進んでおり、iPhoneやiPadのカメラにも搭載されるようになっています。(※1)
大学やレーザセンシング学会においても、LiDAR小型化の研究開発が進められている状況です。(※2)
LiDARの価格帯は幅広く、高性能なものは数百万円のコストがかかります。しかし、一般の方が拡張現実(AR)を用いたゲームを楽しむ、暗い場所で写真撮影をするなど、日常的に利用する場合であれば、iPhone搭載のLiDARで対応可能です。一般の方が利用するLiDARは、産業目的で導入されているものと比較すると低コスト化が進んでいます。
参考:
フォトニック結晶レーザー搭載LiDARの大幅な小型化(体積1/3)に成功| 京都大学(※1)
工業用ライダーの小型化の研究Ⅱ|レーザセンシング学会(※2)
AI・機械学習との連携による測定精度向上
LiDARにより取得された3Dデータは、単一ファイルとして保存される場合でも約100MB以上と容量が多く、そのままの状態で単独で活用することは困難です。複雑なデータを活用しやすくするためには、効率的に解析・分類する必要があります。そのため、AIや機械学習技術と連携して作業の効率化を図ることが推奨されています。
AIとLiDARの連携のメリットを以下に示しました。
- 物体認識能力や異常検知能力が向上するため、建設業の安全管理や進捗管理などに役立つ
- 対象物の動きをリアルタイムで監視・分析できるため、防犯カメラなどの侵入者検知システムなどに活用できる
- AIがLiDARに蓄積された過去のデータから将来の動きを予測するようになる
LiDARにより取得されたデータは容量が多く、通信時に回線の許容量を圧迫してしまいます。そこで役立つとされるのが、AIの一種である機械学習です。機械学習を活用することにより、重要度が高いデータの選別が可能になります。データ選別の結果、限られた通信回線許容量でも、リアルタイムで優先度の高いデータの送受信がおこなえます。
AIや機械学習と連携することで、膨大な量のLiDARデータの取捨選択が可能になり、さらなる有効活用が可能になるでしょう。
衛星・航空機搭載LiDARによる地理情報の高度化
衛星や航空機に搭載されているLiDARには特定の波長が用いられています。その特別な構成により、高解像度のデジタル標高モデル(DEM)や3Dモデルを提供できるため、従来の地形データよりも精度の高い分析が可能です。
文部科学省は、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)と共同で、衛星搭載の開発を進めています。衛星搭載LiDARの活用が期待されている主な分野としては、災害対応や都市開発計画などがあげられます。
衛星搭載LiDARの開発は、民間企業や大学も加わっている官民連携事業です。先進技術と公的機関が協力関係を築くことで、地理情報のさらなる高度化が期待されています。
LiDARの導入を検討する際のポイント
LiDARを活用した製品にはさまざまな種類があるため、用途にあった製品選びが大切です。この章では、LiDARが活用されている製品を導入するときに検討しておきたい3つのポイントを解説します。
測定距離・精度・環境耐性の違い
LiDARの測定距離は、レーダーの強度や対象物の反射率により異なります。測定距離が長いほど、短時間での計測が可能です。
広いエリアを短時間で計測できるLiDARであれば、広大な面積のデータを取得できるため、屋外の監視や倉庫や工場の製造ライン点検にも活用できます。
LiDARは雨や霧などの悪天候下で精度が低下するデメリットがあります。これに対し、ミリ波レーダーは天候の影響を受けにくいことが特徴です。悪天候時においても計測が求められる場面では、天候の影響を受けにくいミリ波レーダーとLiDARの併用を検討することが望ましいでしょう。
用途別のLiDARセンサーの選び方
使用する用途に応じて、適したLiDARセンサーを選ぶことも大切です。LiDARセンサーとは、LiDARを実装する装置のことです。
広い場所の地図を作成するためには、長距離測定が可能な「機械式LiDARセンサー」や「フラッシュLiDARセンサー」などが用いられます。ドローンに活用する場合は、小型で軽量、かつデータ取得が速い「ソリッドステート LiDAR」や、精度が高く長距離測定が可能な「周波数変調連続波(FMCW) LiDARセンサー」などが用いられます。
LiDARセンサーを選ぶ際のポイントは、スキャンの速さやレーザーの強さ、価格などです。
センサー選びへの疑問や不安がある方は、東京貿易テクノシステムにご相談ください。
ソフトウェアとの連携
LiDARと連携するソフトウェアの選択も重要です。
東京貿易テクノシステムで取り扱っているLiDARセンサー用のオープンプラットフォームAccur8visionは、監視が必要な空間全体を保護できるセキュリティシステムです。
LiDARの機能が、侵入者の正確な位置やサイズ、速度、動きの軌跡といったデータを検知し、監視カメラと連携して侵入者を監視・追跡します。パソコンやタブレット、スマートフォンを使った、リモートによる監視も可能です。
Accur8visionについて、詳しくは以下のページをご覧ください。
■Accur8vision(広域エリアLiDAR監視)の製品詳細はこちら
まとめ
LiDARは3D計測技術のひとつで、レーザーを用いた手法です。
従来のLiDAR活用範囲は、主に航空測量や自動運転などでした。しかし最近では、製造業での品質管理やセキュリティシステムなど、活用の幅を広げています。
今後は小型化や低コスト化に加え、AIとの連携などが進むことで、さらなる多様な分野への展開が期待されるでしょう。
東京貿易テクノシステムでは、高性能なLiDAR・AIカメラシステムを提供しております。LiDARの導入をご検討の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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