製造業界など多くの分野で活用が広がり始めているデジタルツイン。効果的に活用することで、生産性向上やコスト削減など多くのメリットがもたらされます。
ここでは、デジタルツインとはどのようなものなのか、導入するとどのようなメリットがあるのか、実際の導入事例などをご紹介します。
デジタルツインとは?
デジタルツインとは、現実世界で得られたデータをデジタル上に再現する技術です。仮想空間上に再現したモデルは、シミュレーションやAIによる分析などに活用されてます。
例えば、試作した装置にセンサーなどを取り付け、コンピューター上に現実の試作品の仮想モデルを作成したとしましょう。現実世界で取得したデータや既存の製品情報などをもとに分析・シミュレーションをおこなうことで、装置がうまく動作しない原因を究明できたり、装置に不調が起きる前にその兆候を知ることができたりします。
こうした技術の活用は、主に製造業界で広がりを見せ始めています。
メタバースとの違い
メタバースはデジタルツインと混同されやすいワードの一つです。
メタバースは、仮想世界や仮想現実などとも呼ばれ、現実世界とは独立した空間のことを指します。
一方で、デジタルツインは現実世界をそのまま仮想空間に再現するものであり、現実世界とリンクしているかどうかという点で大きく異なります。
シミュレーションとの違い
一般的に、シミュレーションとは対象からある要素を抽出し、模倣・再現して検証をおこなうことを指します。
シミュレーションとデジタルツインの違いの一つに、シミュレーションの再現環境の違いが挙げられます。
デジタルツインではコンピューター上の仮想空間でシミュレーションがおこなわれます。しかし、一般的なシミュレーションという言葉はコンピューター上でおこなわれるものだけを指すものではなく、場合によっては、実物のサンプルを指すケースもあります。
また両者の違いとして、リアルタイム性の高さも挙げられます。
一般的なシミュレーションでは、実際に仮説を立てて実験・検証をおこなうため時間がかかり、リアルタイム性を担保するのが難しいです。
一方デジタルツインは、現実世界の情報と連動したデジタル情報をもとにシミュレーションをおこなうため、リアルタイム性が高いといえます。
デジタルツインが注目されている理由
デジタルツインが注目される理由はいくつかあります。詳しく見ていきましょう。
「Society5.0」の提唱
政府は平成27年、科学技術イノベーションの推進を掲げた「第5期科学技術基本計画」を発表しました。
そのなかで、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)※」を実現させる「Society5.0」が提唱されました。
その計画実現の手法としてデジタルツインが提案されています。
※引用元:内閣府「Society 5.0」
DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に期待
DX(デジタルトランスメーション)とは、企業がビジネス市場の急速な変化に対応するため、IT技術を利用して組織の内部システムの変革を牽引しながら新しい価値を創出し、競争に打ち勝つことを目指すものです。
DXは単純にデジタル化を進めることではありません。企業が持つデータを経営上の資産としてとらえ、新しいビジネスモデルの創出や企業風土の変革に役立てることがDXの考え方です。
DX推進の一環として、デジタルツインを活用した現状分析・シミュレーションをおこなうことで、現状の経営課題や既存製品の改善点の発見にもつながります。
デジタルツインを支える技術とは?
デジタルツインはさまざまな技術に支えられて成り立っています。具体的にいくつかご紹介します。
IoT
IoTはInternet of Thingsの略で、日本語では「モノのインターネット」と表現されます。これまでインターネットに接続されてこなかった家電や産業機器などをサーバーやクラウドにネットワーク接続させ、相互で情報交換できるようにする技術のことです。
デジタルツインでは、現実世界から仮想空間に大量のデータを送る必要があります。ここで活躍するのがIoTです。デジタルツインの対象製品などに取り付けられたセンサーやカメラなどから情報を集め、リアルタイムに仮想空間に送信します。
AR・VR・MR
AR(拡張現実)は仮想空間の情報を現実世界に重ねて映し出すもの、VR(仮想現実)は仮想空間を現実のように疑似体験できるもの、MR(複合現実)はARとVRを組み合わせたもので、仮想オブジェクトが現実世界に映し出されるものです。
これらの技術は、デジタルツインで仮想空間に現実世界を再現したり、得られたデータを現実の製品に反映したりすることに活用されます。
CAE
CAEはComputer Aided Engineeringの略で、実際に試作しなくてもコンピューター上で工学的なシミュレーションをおこない解決していくものです。
製造業界では早くからこのCAEが使われていましたが、近年のIoTや情報技術の進歩によって仮想空間上でより現実に近い形で対象物を再現できるようになってきています。
5G
5Gとは第5世代移動通信システムのことで、高速かつ大容量のデータ通信を可能にする技術です。
現実空間と仮想空間の間でやりとりされる膨大なデータをリアルタイムにつなぐために不可欠な通信システムとなっています。
AI
AIとはArtificial Intelligenceの略で、人工知能のことです。
デジタルツインで送られる膨大なデータを分析する役割を果たします。AIを活用することで、従来のシミュレーションに加えAIによる機械学習をもとに将来の予測もおこなえるようになります。
製造業におけるデジタルツイン導入のメリット
ここまで、デジタルツインとはどのようなものかを解説してきました。では、実際にデジタルツインを製造業に導入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
リアルタイムの監視と予測保全ができる
工場の設備全体をデジタルツインで再現しておけば、離れた場所からでもリアルタイムで工場内を監視できるようになります。
それにより、時間の経過で原因不明になりがちなトラブルも時間をさかのぼって分析・究明できるようになります。また、IoTとAIの導入によるデータ解析で今後故障しそうな箇所があらかじめ予測できるため、故障する前に保全に取りかかることができます。
低リスクでの製品開発が可能になる
デジタルツインの導入は、製品開発の分野にも大きなメリットをもたらします。
デジタルツインではCAEを用いてコンピューター上で試作や実験ができるため、試作にかかる材料費や設備費などのコストを大幅に減らせます。
また、これまでは実際の試作品がなければできなかったような実験も、コンピューター上でなら何度も繰り返すことが可能です。
これにより、実際に製造をおこなう際にリスクとなりうる箇所を明確にでき、より低リスクでの製品開発ができるでしょう。
製造プロセスのコスト削減と最適化につながる
現在稼働している製造プロセスをいったんストップさせて生産条件や人員配置の見直しをおこなうのは難しいものです。
しかし、デジタルツインを利用したシミュレーションでは容易に生産条件の変更ができます。シミュレーションを通じて、自社にとって最適なプロセスを把握できるでしょう。
また、シミュレーションで試作した製品を改良することも可能になります。
これにより、試作から製造までにかかるコスト削減にもつながります。
製品の品質向上につながる
デジタルツインではAIが膨大な情報を高度に解析するため、人間では認識できない問題を見つけ出すことができます。製造プロセスの問題や品質を悪化させる原因の特定が可能となり、製品の品質向上につながります。
遠隔からの作業が可能になる
デジタルツインを導入すると遠隔から設備を監視できるため、リモートワークも可能になります。例えば、製造ラインで異常を伝えるアラームが鳴ればオンラインで早急に対処でき、製造上のミスやロスを最低限に抑えることができます。
利用者へのアフターフォローが充実する
利用者へのアフターフォローは、製品やサービスを提供する企業として欠かせません。
デジタルツインの活用は開発や製造工程の段階にとどまらず、製品が顧客側に渡ったあとのアフターフォローにも役立ちます。搭載されたセンサーなどを通じて出荷後の製品の状況を把握できるため、顧客の不満や新たなニーズを察知できます。故障や部品の摩耗も予測できるため、部品交換の提案を適切なタイミングでおこなえます。
また、デジタルツイン技術を応用して仮想マニュアルを導入すれば、購入者側も取扱方法を感覚的に理解しやすいでしょう。
デジタルツインを導入するうえでの課題
メリットばかりに思えるデジタルツインですが、導入するうえでの課題もいくつかあります。
導入から管理まで高い技術が求められる
デジタルツインの導入・管理には高い技術が求められるため、自社だけでの導入は難しく、外部業者に導入を委託することもあるでしょう。
しかし、日々の運用保守で万が一のトラブルや不具合が発生した場合に備え、社内にも対処できる人材を確保しておく必要があります。現状、デジタルツインに高い知見をもつ人材は決して豊富とはいえず、社内で人材を育成するためには多くの教育コストがかかる可能性があります。
また、近年はデータ漏洩が企業に大きなダメージを与えるケースが多く見られます。デジタルツインを導入する際はデータをネットワーク上で厳重に管理するための高度なセキュリティ対策が欠かせず、それに対応できる人材の確保も必要になります。
高額な維持費がかかる
デジタルツインにかかる費用はまだまだ高額であり、導入時はもちろん、維持にも多くの費用を必要とします。システム構築から日々のメンテナンス、シミュレーションデータの保存や管理など、あらゆる工程に費用がかかることをしっかり確認したうえで導入を検討しましょう。
工場の規模によっては活用しきれない
製造業に生産性向上など多くのメリットをもたらしてくれるデジタルツインですが、基本的に適しているのは大規模な工場やプロジェクトです。
小規模な工場では、導入時にかかるコストが利益に見合わない場合があります。投資額が回収できるか、回収するのにどれだけの期間を要するかを計算しておきましょう。
デジタルツインの活用事例
実際にデジタルツインを導入している組織の活用事例を見ていきましょう。
国内の都市モデルを仮想空間で再現「PLATEAU」|国土交通省
2020年にスタートした「PLATEAU」は、国土交通省が多分野の研究者や地方公共団体、企業などとともに進める、日本全国の都市のデジタルツイン実現に向けたプロジェクトです。
2021年度に全国56都市のオープンデータ化が完了し、2022年度にはさらに71都市のデータを追加されました。
PLATEAUでは、実際の都市の形状を3Dデータに落とし込むだけでなく、建物の階数や築年数などの属性データや道路に関する情報なども盛り込み、サイバー上での高精度なシミュレーションを可能にしています。
ほかにも、地域活性化や観光、災害対策、エリアマネジメント、インフラ管理などへの活用も期待されています。
参照:国土交通省「PLATEAU [プラトー] | 国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト」
デジタルツイン技術を活用した災害時の対応支援「CPS4D」|内閣府
災害時には、組織や個人の壁を超えて情報を共有し、状況の認識を統一する必要があります。そういった際に対応支援をおこなうのが「CPS4D」です。
フィジカル空間で取得したデータをサイバー空間に集約。集まったデータをもとに、AIを用いて災害動態を解析し、緊急活動や避難時の意思決定を支援します。
参照:国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)「協働型災害対応を支える「SIP4D」の概要と社会実装における課題」
Omniverseを活用した製造ラインのシミュレーション|自動車メーカー
生成AI分野で注目を集めるNVIDIA社が提供するメタバース構築プラットフォーム「Omniverse(オムニバース)」。デジタルツイン関連で製造業から注目を集めており、自動車メーカー各社とのプロジェクトが進んでいます。
参加企業のなかには、製造ラインのDXを推進するにあたってOmniverseを活用した製造ネットワークの構築を目指している自動車メーカーもあります。
Omniverseの使用は、ロボティクスや生産システムの最適化をはかるだけではありません。世界中の自社工場やプランナー、外部パートナーなどと知識やデータを共有できるようにし、ロボットを活用したAI主導の工場の実現につなげています。
デジタルツインの導入により製品管理を効率化|空調家電メーカー
ある空調家電メーカーでは、デジタルツインを搭載した生産管理システムを導入し、組み立て工程などの再現をデジタルツインでおこなっています。
生産工程の各所にセンサーを設置し、作業員の動きや制御データをデジタルツイン上で収集・分析することで、異常の予測に役立てています。こうした取り組みにより、導入前と比べて大幅なロス削減が見込まれています。
遠隔監視システムで現場担当者と指導者を接続|化学メーカー
世界最大級の化学プラントを抱えるある化学メーカーでは、プラントのプロセス設備にデジタルツインを導入しています。
具体的には、プラントごとに熟練技術者が不在でもリモートで対応できるシステムを構築しています。
これにより、トラブルが発生した際も現場担当者と熟練指導者のスムーズな連携が可能になり、生産性と安全性の向上に貢献しています。
TTSの計測DXソリューション「REGALIS Fusion」のご紹介
「REGALIS Fusion」は、デジタルツインを活用したバーチャル検証(シミュレーション)ソリューションです。
従来のシミュレーションでは現物試作と設計値の誤差によりシミュレーションの精度に課題があり、現物形状に合わせたシミュレーションモデルを作成するには多くの工数とコストがかかっていました。
しかし、REGALIS Fusionでは設計値から作成したシミュレーションモデルに現物の測定データを反映することで、現物精度のモデルを効率的に作成し、シミュレーションの予測精度を高めて大幅な工数とコスト削減を実現します。
また、現物の検査治具をバーチャルに置き換えることで治具の制作コストの削減にもつながっています。
詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
製造業界で注目されているデジタルツインは、インフラ管理や災害時の対応支援など、幅広い分野で活用されています。
さまざまな課題を低コスト・低リスクで解決していくデジタルツインは、今後さらに活用の幅を広げ、国内のDXの加速に貢献していくことでしょう。
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